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面山瑞方禅師『永平祖師家訓綱要』と体系的宗乗

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江戸時代の学僧・面山瑞方禅師(1683〜1769)は以前【『永平広録』敷衍の様子】という記事でも書いた通りで、道元禅師の語録である『永平広録』の参究を行い、更に周囲の僧達に提唱までしていた様子が明らかになっていますが、この面山和尚が編まれた『永平祖師家訓綱要(以下『永平家訓』と略記)』(上下巻)という文献があります。これは、『永平広録』を以下の八章に分けて本文を抽出したものです。各章のタイトルと、簡単な解説を付しておきます。

・第一発心出家訓
『永平広録』の中で、特に、「発心」そして「出家」に関わる小参・上堂語を集めたものです。発菩提心の難得なる様子や、無上菩提を学ぶということの方法、或いは道心について説かれています。

・第二仏祖正宗訓
仏法について示された上堂語を中心に集められ、さらにそれが、祖師方によってどのように伝えられてきたかも示されています。その際、軌範とされたのが、いわゆる拈華微笑話です。

・第三諦信因果訓
仏の修行とは、正しく因果の道理を信じるところから始まるわけですので、道元禅師が因果について詳しく示された上堂語を中心に集めています。

・第四通達修証訓
不染汚の修証というのは、いわゆる中国禅宗の六祖慧能−南嶽懐譲の両禅師の問答を基本としますが、この基本となる問答を始めとして、道元禅師が「修証観」について論じている上堂語・法語などを集めています。

・第五揀辨邪見訓
これは、文字通り仏道の内容を正しく判断することを説いた一章です。道元禅師の上堂語などにも、繰り返し仏道と、それ以外の教えを厳しく峻別することを説きますので、それを集めています。

・第六正伝三昧訓
ここから下巻になります。正伝の三昧とは、いわゆる坐禅三昧のことですので、この章では『普勧坐禅儀』(流布本は『永平広録』に収録)、『道元禅師坐禅箴』(卍山本に収録)、それ以外の坐禅に関する上堂語などを集めた一章です。

・第七格外玄旨訓
通常の常識では推し量ることの出来ない、仏祖の玄旨を説く上堂語などを集めた一章です。いわゆる坐禅を経て、その後の宗旨がどのように展開されるかを知る一章です。

・第八知恩報恩訓
道元禅師は、いわゆる死者供養について、否定的であったというような人もいますが、この一章は、『永平広録』に見える祖師への追善法要、俗親への追善法要の上堂語を集めており、坐禅三昧から、ここまでスッと体系的に広がっていく様子を見ることが出来ます。

このように、面山和尚は、出家者が正しく志を発し、仏祖の伝えてきた正しき教えを理解し、その上で因果の道理を信じ、修証に通達し、邪見を却け、正伝三昧に浸りながら、衆生救済への展開を示し、更にその中で、他の者のために供養する様子までも体系の中に入れているわけです。

拙僧はここに、やはり近世学僧の豊かな宗乗眼を見出すべきであろうと思っています。近代に入り、どこか坐禅と供養とが対立的に扱われ、道元禅師は「坐禅専修の人」「純粋禅の人」のような評価から、曹洞宗の宗旨も、坐禅ばかりを基調とした内容になってしまいましたが、江戸時代の人は、坐禅と供養の無矛盾な繋がりを見ていたように思うわけです。

だからこそ、この上記の如く、第一章から六章までは、出家して参学し、坐禅三昧に到るという向上門的内容であって、第七章は向上向下を具え、向下門である第八章に到るという体系が見えるといえましょう。しかも、この全てが、道元禅師の教えをそのまま改変することなく編集されている(順番だけ組み替えた)わけですので、恣意的に余計な文脈を入れる必要も無いわけです。

その意味では、近代というのは、自らが保持してきたその近代の眼によって、本来あった豊かな体系を見逃しているとも思うわけです。反面、近世は、無論近世なりの様々な誤謬や問題はあるわけですが、しかし、近代よりも真摯に祖師の教えを学ぶ努力をしているようにも感じられるわけです。近世は、いわゆる達意的に、組織的に宗旨を把握するということはないわけですけれども、しかし、それに至るプロセスは十分に存在するわけで、それを現代的に捉える作業を施すと、様々な利点が得られるわけです。この記事でも、道元禅師の教えの中に、坐禅と供養とが並立している状況を見て取れました。以前、別の記事で指摘したことがあるのですが、そもそも曹洞宗の教えとは、「あれかこれか」ではなく、「あれもこれも」でもなく、「あれ!」「これ!」なのであります。ここで、坐禅と供養とが両立できる環境が整うともいえるわけです。

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