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説法の善し悪しと場の空気

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このような記事があったので、それから記事にしてみたい。

空気を察するタモリさんの魅力。多彩な顔を持つタモリさんが24年前に語った「生き残れないタイプ」とは(WEB本の雑誌)−Yahoo!ニュース

要するに、お笑い芸人だからといって、常にバカなことばかり言っていると、ただのバカになってしまうといい、なるほど一見見た目が面白いので、視聴者は最初は面白いと思ってもいずれ飽きてしまうため、底の浅い芸人になってはいけない、ということを説いているという。普遍的に捉えれば、記事にもある通り、「場の空気」を察する力を持つことが大切だという。

これ、同じことは、我々の説法にもいえることだ。

我々も、同じ説法だけを延々と続けることは出来ない。その時々に合わせて、様々なことを織り込んで、たまには怒ったり、たまには笑わせたり、状況に応じて行くべきであるといえる。そこで重要になってくるのが、「場の空気」を読む力である。これは、その時の聴衆が何を聞きたがっているかを正確に理解し、それに合わせた話をしていくことである。ただ、そういう話をしておしまい、というのなら、別に我々が僧侶である必要はない。最終的には、キチッと仏教の話をしていくのだが、その前段階で、話し手自身に興味を持って貰うこと、それが肝心である。

その意味では、我々はなるほど、仏教の話はしていくが、しかし、我々本位に話を進めるのでは無くて、「場の空気」という言葉に総称されてしまうような、相手の心の内の声を聞いていくべきであり、その意味で、話しつつ、しかし、同時に相手の話を聞く技術を使っているといえる。法事や葬儀の席などで、一方的に僧侶が話をするというイメージしか無い人には、ちょっと理解出来ないかもしれないが、我々は聞く技術に重きを置くのが事実である。

 示ニ云ク、学道の人、参師聞法の時、能々窮メて聞キ、重ネて聞イて決定すべし。問フべきを問はず、言ふべきを言はずして過ゴしなば、我ガ損なるべし。
 師は必ず弟子の問ふを待ツて発言するなり。心得〈経〉たる事をも、幾度も問ウて決定すべきなり。師も、弟子に能々心得たるかと問ウて、云ひ聞かすべきなり。
    『正法眼蔵随聞記』巻1-11

これは、道元禅師の教えである。まずは、聞き手側(学ぶ側)への説示になるが、師に参じるときには、よくよく聞いて、重ねて聞いて、道理を決定すべきだという。もし、問うべきことを問わずに、言うべきことを言わないときには、その学ぶ側の損になってしまうというのである。以前、拙ブログの記事でも書いたことがあるが、拙僧がいわゆる坊さんの格好をして世間を歩いていても、仏教について質問してくる人は、本当に少ない。いや、ほとんど経験が無い。まぁ、こいつに聞いても意味が無いと思われているのかもしれないが、同時に思うことは、多分、世の中に、本気で悩んでいる人は少ないという確信である。本気で悩んでいるのなら、目の前に坊さんがいれば、道理を尋ねると思うのだ。もし、体面などを気にして聞かないのなら、まだ体面を気に出来る「余裕」があるといえる。

そして、上記引用文には聞かれた側(教える側)への説示も同じく見えるが、特にこの箇所では、教える前段階としての「聞き方」に注意が向いていることが分かる。つまり、師の側としては弟子に、良く良く心得たか?と何度も聞くべきだというのである。肝心なところは、重ねて説く必要があるといえるが、更に聞き手に理解したところを言葉にさせて確認させる作業を怠ってはいないのである。なお、いうまでもないことだが、道元禅師は同じく『随聞記』にて、説くときには、余計な方便を巡らして迂遠に説くのでは無くて、正しく核心の教えを説くべきだと指摘している。

さて、「場の空気」を読むというところから、我々自身の説法の話をしたが、繰り返しになるけれども、我々は説法といったって、一方的にこちらの都合で話をしてはならないのである。その場の聴衆の表情や、聞く体勢などから様々な心の動きを読み、その上で話を紡いでいくべきだといえる。そして、ここも重要だが、我々の側に、たった1つの選択肢しか無いのなら、結局幾ら空気を読んでも、その都度変わることは出来ない。変わるだけの選択肢を我々が持っておく必要がある。だからこそ、拙僧の師匠も良くいっていたことだが、「良き布教師は良き学者であり、良き学者は良き布教師である」という。

基礎の学びが無ければ、空気を読んでも活かせないのである。

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