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道元禅師の「祈晴上堂」について

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まぁ良く、「道元禅師はご祈祷などを否定し、現世利益を否定した」という妙な主張への反駁として引用されることが多い、道元禅師の「祈晴上堂」というのがある。今日はそれを見ていきたいのだが、予めいっておけば、道元禅師がご祈祷を否定したということはない。また、現世利益も否定していない。ただ、その方向がどこに向いているか?という点で、一般世間に生きている人たちが願う状況とは異なっているというだけだ。道元禅師の場合、どこまでも「仏道の成就」という点に於いて、祈祷は求められている。よって、身体の健全を祈るが、それは修行をするためであるし、或いは荘園を耕す際に龍天に祈るのは作物の収穫量を増やすためだが、結果的に修行を効率良く行うためである。

これらは『永平寺知事清規』辺りをご覧いただければすぐに分かる。よって、祈祷はあった。だから、以下の上堂を「貴重な例外」とは捉えるべきでは無い。

 六月初十、晴を祈る上堂。去年今年、春夏秋冬、天下降雨、昼夜息まず。百姓憂愁し、五穀登らず。
 今、永平長老、国土の憂愁を済拯せんが為に、先師天童、清涼に住せし時、晴を祈る上堂を挙して、亦、以て晴を祈る。所以は何となれば、仏法、如し加せずば人天の苦しみ、若が為ん。大衆、還た、永平の意旨を委悉すや。
 先師、未だ上堂せざりし時、諸仏諸祖、未だ曾て上堂せず。
 先師上堂の時、三世の諸仏・六代の祖師・一切の鼻孔・万箇の眼睛、同時に上堂す。一刻も先んずることを得ず、半刻も後れることを得ず。永平、今日の上堂、亦復、是の如し。
 良久して云く、一滴息まず、両滴三滴。滴滴瀝瀝、連朝至夕なり。変じて滂沱と作す、奈何ともすること勿し。山河大地、風波を袞ず。
 打噴嚏一下して云く、総じて衲僧の噴嚏一激を出でずして、直に雲開き日出ずることを得ん。
 払子を挙して云く、大衆、者裏に向かって看るべし。朗朗たる晴空八極を呑む。若し還た旧に依って水漉漉せば、渾家、羅刹国に飄堕せん。稽首釈迦、南無弥勒。能救世間苦、観音妙智力。咄、と。
    『永平広録』巻5-379上堂

なお、文中、「良久して云く」から末尾の「咄」までが、如浄禅師の上堂である。よって、道元禅師は直接自らの言葉でもって、晴れを祈ったというより、師である如浄禅師の語を借りたといえる・・・と、普通ならそう考えると思う。だが、ここで道元禅師がいおうとしているのは、「上堂の同時性」である。

そもそもこの上堂は、建長2年(1250)6月10日に永平寺で行われたとされ、今なら7月初めという位だが、その時に至るまで、前年から季節を変えても雨が続いていたという。その結果、多くの人が憂い、五穀も実らないので飢饉が起きていたようである。道元禅師はそういう国土の状況を鑑み、「国土の憂愁を済拯せんが為」に、上堂を行うというのである。また、ここで「仏法が加護することが無ければ、人天の苦しみはどうなってしまうのか?」というような発言も見えることから、道元禅師に社会問題へコミットする意図があったことも分かる。この辺は、注意しなくてはならない。ただ永平寺の中で坐禅していただけの人、では無いのである。

そこで、先にも挙げた「上堂の同時性」については、そもそも如浄禅師が上堂された時、三世諸仏・六代祖師や鼻孔・眼睛に至るまで、ありとあらゆる事象が同時に法を説いたという。では、これ自体に意味があるかといえば、如浄禅師の上堂自体は、晴れを祈る要素を含んだものである。そして、道元禅師は自らそれを再現された。ここまでだと、ただ言葉をもって祈っただけである。

しかし、更に一歩を進めなくてはならない。この如浄禅師の上堂の際に、他のあらゆる事象もまた法を説いたことを鑑みれば、これは大きな功徳を積んだことになる。そして、この功徳を回向して、更に祈るのである。その対象は、釈迦如来であり、弥勒菩薩であり、観音菩薩である。既に、自分のみならず仏祖の全てが法を説いているのだから、無量の功徳を得ている。それをただ、晴れを祈るためだけに使うのでは無くて、更に仏・菩薩に回向するのである。こうすることで、我々の祈りは更に力を得ることになる。だからこそ、世の人も救われるといえる。それは祈りと功徳、そして回向が密接に関わり合っているためである。

日本は多くの地域で梅雨に入っている。梅雨は梅雨で降ってくれないと、自然環境に影響が出る。だから、今は晴れを祈る必要は無い。だが、往々にして降りすぎた雨は、大きな被害をも出す。その時には祈りが必要となってくる。我々の祈りは、絶対的な幸福をもたらすためのツールでは無い。世の不幸をちょっとずつでも減らすためにあるように思えてならないのだ。

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