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「孤立無援」と「楽寂静」という言葉

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最近、こういう報道を見た。

孤立無業162万人 実態を探る(みんなの政治)−Yahoo!JAPAN

誤解の無いように予めいっておくが、世間一般に於ける価値観の中で、「孤立無援」というのは本当に厳しい。よって、様々な政策により、或いは各地域の活動により、解消に向かうことをただ願うばかりである。無論、それに拙僧などが協力できるのであれば協力したいが、それは今回の記事とは別の話である。

ところで、仏教にはこういう教えがある。

 三には楽寂静(諸の憒閙を離れ、空間に独処するを、楽寂静と名づく)。
 仏言く、汝等比丘、寂静無為の安楽を求めんと欲はば、当に憒閙を離れて閑居に独処すべし。静処の人は、帝釈諸天、共に敬重する所なり。是の故に、当に己衆・他衆を捨てて、空間に独り処して滅苦の本を思うべし。若し衆を楽む者は、則ち衆悩を受く。譬えば、大樹の衆鳥、之に集まれば、則ち枯折の患い有るが如し。世間の縛著は衆苦に没す。譬えば老象の泥に溺れて、自ら出ること能わざるが如し。是を遠離と名づく。
    『正法眼蔵』「八大人覚」巻

さて、仏道を学ぶ比丘は、もし寂静なる安楽を求めるのなら、あらゆる仲間を捨てて、空間に「独り処して」おくべきだという。何故かといえば、それにより「滅苦の本」を思うためである。確かに、世間一般に生きる場合には、人間関係を円滑に行う能力が求められ、そういう中から成功も失敗も生まれてくる。だが、同時に人間関係は、複雑であり、それが我々に多くの困難を生むことも確かである。要は、人間関係から生み出される「苦悩」は世間一般に於ける苦悩であるが、仏道に於ける重要なる苦悩では無い。

仏道に於ける苦悩はどこまでも、この「生死」の問題であり、世間一般の苦悩は「生死のあいだ」に無数に存在しているが、それは全て、捨てることが可能である。この捨てることを、端的に「出家」という。それは、世間からの逃避では無い。「八大人覚」が示す通り、余計な問題を局限して、「生死の問題に注力」するための進歩である。それどころか、「八大人覚」では、衆や世間は、我々の苦悩を増大させ、「自ら出ること能わざる」という状態にまで到るという。

だからこそ、仏道では、孤独を愛するべきであるという。だが、これは、完全に独りになることを意味しない。例えば、道元禅師や瑩山禅師などは、独りでの修行は「魔」に混乱させられるという。この場合の「魔」とは、仏道の精進を退転させる可能性ということである。自分勝手な修行は、自分勝手に止めることも出来る。それは「魔」による退転である。我々は、それを注意しなくてはならない。だからこそ、人間関係は、我々が学ぶために必要なところのみに局限することが肝心である。その時に必要なのは「三種の善知識」である。「指導者」「共に学ぶ仲間」「外護者」である。

だが、この者達は、人間関係の煩わしさを得させるためでは無く、そこから遠離させるためなので、その遠離の志を共有しなくてはならない。つまり、指導者といえど、それは「精神的な束縛を行うグル」では無い。「共に学ぶ仲間」とは、「和合僧」ではあるが、それは人間関係を無用としている。そして、「外護者」はただ、自らの功徳の為だけに、布施を行ずる者である。功徳を得るためだけであるので、世間的な利益を僧侶から得ようとしてはならない。あくまでも、自らの楽を得るため、功徳を積むだけなのだ。

さて、仏道では孤独が肯定される。そうなると、孤立無援を解消せんとする世間一般の流れとは一線を画している。要は、初めから、仏道と世間とでは、目指すべき方向が違っている。それを超えて、無理矢理に両者を合わせることは出来ない。我々はそれを、最初に知っておくべきなのである。つまり、ここからは、自ずと「説き方」や、仏道者としての「世間との関わり方」を、ちゃんと知っておくべきだということになる。仏道では孤独を肯定するからといって、世間に於ける孤立無援が解消されなくて良い、とは言ってはならない。いわば、これこそが、仏道と世間との混同なのである。混同は、これまで、世間と仏道との関わり方を歪めてきた。今こそ、その歪みを解消するべきであろう。

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