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「師子吼の転法輪」について

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道元禅師が仰った有名な一節がある。

 釈迦牟尼仏言、一切衆生、悉有仏性。如来常住、無有変易。
 これ、われらが大師釈尊の師子吼の転法輪なりといへども、一切諸仏、一切祖師の頂ネイ眼睛なり。参学しきたること、すでに二千一百九十年〈当日本仁治二年辛丑歳〉、正嫡わづかに五十代〈至先師天童浄和尚〉、西天二十八代、代代住持しきたり、東地二十三世、世世住持しきたる。十方の仏祖、ともに住持せり。
    『正法眼蔵』「仏性」巻

道元禅師は、仏陀釈尊の説法を、「師子吼の転法輪」と仰った。これは、我々に伝わっているところでは、「師子」とは「獅子」であり、百獣の王であって、その咆吼はあらゆる獣をも従えるという。よって、それと同じように、あらゆる衆生に対し、その正しき道理に依って帰伏させる説法であることから、「師子吼の転法輪」というのである。なお、ついでにいえば、この道元禅師が「釈迦牟尼仏言」として引用した一節は、北伝の『大般涅槃経』巻二十七「師子吼菩薩品」である。よって、そこから「師子吼の転法輪」と説示されたのであり、一種の掛詞である。なお、同経では「師子吼」についての定義も示されるが、それは別の機会にしておこう。

さて、改めて仏陀の御生涯を思うに、太祖・瑩山紹瑾禅師の御垂示を参究しておかねばなるまい。

それ釈迦牟尼仏は、西天の日種姓なり。十九歳にして子夜に城を踰へ、檀特山にして断髪す。それよりこのかた、苦行六年、遂に金剛座上に坐して、蛛網を眉間に入れ、鵲巣を頂上に安じて、葦、坐をとほし、安住不動、六年端坐、三十歳臘月八日、明星の出しとき、忽ち悟道、最初獅子吼するに是言あり。爾しより以来、四十九年、一日も独居することなく、暫時も衆の為に、説法せざることなし。一衣一鉢欠くことなし。三百六十余会、時々に説法す。終に正法眼蔵を摩訶迦葉に付囑す。流伝して今に及ぶ。実に梵漢和の三国に流伝して正法修行すること之を以て根本とす。彼の一期の行状、以て遺弟の表準たり。
    『伝光録』「釈迦牟尼仏章」

これはまさに、仏陀釈尊の一期を非常に簡潔に述べた文章だといえる。19歳で家を出て、檀特山にて自ら髪を切り、苦行を六年、今度は端坐六年、そうして三十歳の十二月八日に、明星をご覧になって成正覚された。その時に発せられたと我々が伝えているのが、「我与大地有情同時成道」である。訓読すれば、「我と大地有情と、同時に成道す」となる。瑩山禅師は、この言葉こそ、「悟道、最初獅子吼」としている。仏陀が仏陀として発せられた最初の言葉ではあるが、同時にこれが「獅子吼」であった。何故ならば、「大地有情」と、「同時に成道」したからである。仏陀独りの成道であれば、それは所詮二乗の悟りに過ぎない。だが、大地有情とともに成道されたのであれば、それは唯一乗の成道である。この「同時成道」は、三世十方に及ぶ。よって、瑩山禅師は次のようにも示される。

今、大地有情の成道を聞き、新たに本有仏性の正因を明かす。
    『瑩山清規』「成道会疏」

このように示されている。つまり、瑩山禅師はこの仏陀の転法輪を聞き、その上で本来に具わる仏性という「正因」を知ったのであった。その意味では、まさに瑩山禅師のところまで、仏陀の「獅子吼」は及んでいることとなる。勿論、その時代、その場所でのみ止まることは無い。現代の我々も、これから漏れることは無いのである。だからこその獅子吼である。

投子道の我道髑髏裡有師子吼は、有甚麼掩処なり、屈己推人也未休なり、髑髏遍野なり。
   『正法眼蔵』「龍吟」巻

だからこそ、投子大同禅師の仰る、「我道髑髏裡有師子吼」は、「甚麼の掩う処か有らん」なのである。これは、普通なら、「どこに、それを掩う処があろうか?」という疑問だが、道元禅師に於ける「甚麼=何」は、事象の「未限定」を意味する。よって、掩う処の有無を絶してしまうのである。よって、「己を屈して人に推すること也た未だ休まず」ともいわれる。人に推すること、「未だ休まず」なのである。よって、「髑髏遍野」である。「遍」はあまねくである。師子吼を有する髑髏があまねいているのである。これは、仏陀の説法によって支えられたるところの、一切の事象そのものである。

我々は、仏陀の師子吼によって存在し、師子吼によって仏性を得、師子吼によって成道出来るのである。

・・・なお、今日、この記事をアップしたのは、今日が「四月四日」で「師子(四四)の日」だからである。合掌

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