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古刊本『永平略録』収録『永平高祖坐禅箴』の読み方

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道元禅師の語録である『永平略録』には、永平寺六世・曇希禅師によって延文3年(1358)に開版された古刊本が知られており、更に、その後に同じ版木を用いて刊行された本も知られている。それで、拙僧自身の関心といえば、同著に収める『永平高祖坐禅箴』の訓読法である。この訓読法については、普通に考えれば、曇希禅師の時代(14世紀後半)に読まれていた方法のはずである。無論、それが道元禅師の訓読法を正しく伝えているかどうかは、確定できないし、他にも、『正法眼蔵』古写本も合わせて見ていくべきではあるが、今日はこの「古刊本」によって、訓読法を見ていきたい。なお、訓読するに当たって、句読点を補い、カナはかなに改め、原文には無い濁点等は適宜補った。また、原文に送り仮名などが無いが補う必要がある場合には()を用い、原文にあるが読んでいない字句は[]で残した。

  坐禅箴 宏智禅師坐禅の箴を慕て此の箴を作(る)
 仏仏の要機、祖祖の機要。
 思量せ不して而(も)現じ、回互せ不して而も成ず。
 思量せ不して而(も)現ず、其(の)現ずること自(ら)親し。
 回互せ不して而(も)成ず、其(の)成ずること自(ら)証す。
 其(の)現ずること自(ら)親し、曾て染汚無(し)。
 其(の)成ずること自(ら)証す、曾て正偏無(し)。
 曾て染汚無きの[之]親、其の親委(すること)無(して)而(も)脱落す。
 曾て正偏無きの[之]証、其の証図ること無して而(も)功夫す。
 水清して地に徹す[兮]、魚行て魚に似たり。
 空闊して天に透る[兮]、鳥飛で鳥の如し。
    『永平略録』所収『永平高祖坐禅箴

ほとんど今と変わらない、という評価をしたいところだが、拙僧が習ってきた読みとは違っている。一番の違いは、「不思量」「不回互」を「思量せ不」「回互せ不」と開いていることだろう。道元禅師の『正法眼蔵』を拝読していると、「不思量」はただ「不思量」とのみ書かれていて、開いた形跡は無い。実際、「思量せず」などのように書かれている文脈も無い。また、それよりも余程使用量が少ない「不回互」については、「回互・不回互」のような用い方をしている。ただ、「大悟」巻に、「他を回互せざれども」とあって、こちらは「回互せず」と用いた可能性も残る。

まぁ、この辺については、実際、「不思量」も「思量せ不」も意味的に違いは無いと、こちらで変換していれば良いだけのことなのだが、何故か宗乗と呼ばれるテキスト読解の中では、この「不」とか「非」の位置によって、過重な意味をくっつけた場合があり、これを思うと看過出来ないわけである。ただ、道元禅師が作ったとも、懐弉禅師が作ったとも言われる『仏祖正伝菩薩戒教授戒文』の訓読法も、宗乗を学んだ人たちが必死になって独自の読解法を主張したけれども、最も古い註釈であろう経豪禅師『梵網経略抄』では、大分泉福寺本で結局普通の読み方になっていたりして、主張の曖昧さが目立ってしまった。或る時、そういう指摘を受けたとき、その旨を答えたところ、意見を発した人は嫌そうな顔をしていた。まぁ、この辺は読んでいてナンボの世界であって、聞法だけで満足してはならないのである。

さておき、後気になったのは、やはりこの一文は、「読解」も考慮されていたのでは無いかということである。それが、「思量せ不して而(も)現じ、回互せ不して而も成ず」と「思量せ不して而(も)現ず、其(の)現ずること自(ら)親し」の部分なのだが、特に「而(も)現じ」と「而(も)現ず」と使い分けている点に注目したい。確かに、最初の方は「現じ」とした方が、次に繋がりやすい。二番目の方は、その後は内容の説明が文章で続くので、「現ず」とした方が良い。

そういう自然な読み方が、既に送り仮名の段階で考慮されているように思われたのである。よって、読誦されていたのでは?という推測を行った。

さて、後は、この『永平略録』に施された「送り仮名」などを、一体誰が付したかということである。実際、同じく道元禅師の語録である『永平広録』の、祖山本(永平寺所蔵本)では、振り仮名に一部、中国語読みらしきものが混じるなどしており、独特な道元禅師の上堂の臨場感を伝えているともされるのだが、それを思うと、古刊本『略録』と祖山本『広録』との厳密な対比も必要になってくる。まぁ、既にその辺を研究しておられる先生もいそうなのだが、とりあえず自分で何でもしなくては気が済まない質なので、その内そういう作業も行ってみたい。

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