道元禅師の八月一日の上堂

今日から八月です。現在の暦でいえば、真夏本番という感じですけれども、いわゆる旧暦であれば、八月は立派な秋でございました。そこで、道元禅師の季節感のある上堂を見ていきたいと思うのですが、現代的にはちょっとずれているかもしれません・・・

　八月一日の上堂。記得す。
　趙州、因みに僧問う「道人、相見の時、如何」と。
　州云く「呈漆器」と。
　師云く「趙州古仏、逸群の勢有りと雖も、且く同参の儀無し。或し、人有って永平に問わん『道人、相見の時、如何』と、祗だ他に対して道うべし『即辰仲秋、漸涼』と。伏して惟れば大衆、尊候居起万福」と。
　　　　『永平広録』巻3-250上堂

これは、宝治元年（1247）8月1日に行われた上堂であることが分かっています。

この上堂で採り上げたのは、中国禅宗・南嶽下の趙州従諗禅師の問答です。『聯灯会要』に収録されており、他にも多くの禅語録で採り上げられています。問題は、修行僧が相見するとはどういう事か？という問いに対して、趙州は「漆器を呈す」と答えました。いわゆる、仏法は情識を差し挟まないことを示したものです。ですから、最早この言葉は、これ以上何も足す必要もなく、引く必要もありません。まさに、逸群の勢のみ有って、同参の方法は無いわけです。

なお、道元禅師は自ら自身の見解を呈します。８月に因んで「即ち時は仲秋（8月）、ようやく涼し」と仰っているわけです。涼しいというと、個人的な情感であると思うかもしれませんが、しかし、仲秋は涼しいのです。季節というのは、一定の規則性を持ちます。この規則性があるからこそ、日本に於ける芸術には、四季に関するフレーズが与えられているのです。また、

ところで、道元禅師が「伏して惟れば大衆、尊候居起万福」と述べたのは、どういうことなのでしょうか？この意味ですが、修行僧達を気遣い、一言でいえば、「修行僧諸君よ、ご多幸であれ」と願う内容です。他の場面でも、同じように季節の変わり目に因んで、修行僧を気遣う言葉を発したことがある道元禅師ですが、ここでは、もう一つ別の理由も考えていくべきです。

それは、同年の8月3日、道元禅師は檀那俗弟子に会うために鎌倉に行化するのです。つまりは、寺を出るわずか2日前に行われた上堂であるとご理解下さい。この後、約半年間、道元禅師は永平寺を空けるので、その間、弟子達に良き御修行をして欲しい、という想いが込められたご挨拶だったのだ、と拙僧などは戴いております。

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