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『大般涅槃経』と生飯の話

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「生飯」と書いて、正しく読める人が、読者の中に何人おられるのでしょうか?もちろん、宗侶の方は全員読めるでしょうけれども、一般の方で読める人は少ないと思われます。これは、「さば」と読みまして、我々僧侶が、日常の食事の際に、自分が食べる分からわずかずつ、生きとし生ける存在に施す「施食」を意味します。

この「生飯」には典拠があります。今日は、それを確認していきたいと思います。

 善男子、我一時、彼の壙野の聚落の叢樹に遊びて、其の林下に在るが如し。一りの鬼神有り、即ち壙野と名づく。純ら肉血を食し、多く衆生を殺す。復た、其の聚に於いて日に一人を食す。
 善男子、我、爾の時、彼の鬼神の為に広く法要を説く。然るに彼、暴悪・愚痴・無智にして教法を受けず。我、即ち身を化して大力鬼と為って、其の宮殿を動じて所をして安んぜなからしむ。彼の鬼、時に其の眷属を将いて、其の宮殿より出でて来たりて拒て逆わんと欲す。鬼、我を見て時に即ち心念を失す。惶怖して地に躄れ、迷悶断絶して。猶お死人の如し。我、慈愍を以て手で其の身を摩して、即ち還た坐を起たしむ。是の如きの言を作す。「快き哉、今日、還た身命を得る。是、大神王の大威徳を具えるが如し。慈愍の心有りて、我、愆咎を赦したもう」と。即ち我が所に於いて善信心を生ず。我、即ち還た、如来の身を復す。復た更に為に種種の法要を説く。彼の鬼神をして不殺戒を受けしむ。
 即ち、是の日に於いて、壙野村中に一りの長者有り。次に応当に死すべし。村人、已に送りて彼の鬼神に付す。鬼神、得已りて即ち以て我に施す。我、既に受け已りて便ち長者の為に、更に名字を立てて手長者と名づく。
 爾の時、彼の鬼、即ち我に白して言く、「世尊、我、及び眷属は、唯だ血肉を仰いで以て自らの活を存す。今、戒を以ての故に、当に云うべし、何んが活すべし」と。
 我れ即ち答えて言く、「今より当に声聞の弟子に勅すべし。仏法を修行すること有るの処に随って、悉く当に其をして汝に飲食を施さしむべし」と。
 善男子、是の因縁を以て、諸の比丘に是の如きの戒を制す。「汝等、今より常に、当に彼の壙野鬼の食を施すべし。若し住する有る処に、施すこと能わざる者は、当に知るべし、是の輩、我が弟子に非ず。即ち是、天魔の徒党・眷属なり」と。
 善男子、如来は、衆生を調伏せんと欲するが為の故に、是の如き種々の方便を示す。
    『大般涅槃経』巻十六・梵行品第八之二

内容としては、壙野鬼という鬼神がいて、人を喰らって生きていたようです。そこで、世尊はこの鬼神のために法要を説きました。しかし、その鬼神は、中々教えを受けることが無かったので、世尊は自分の身を「大力鬼」という、鬼神よりも強い存在と化けて、その鬼神の宮殿を襲いました。その恐ろしい姿を見た鬼神は、気を失いましたが、大力鬼はそれを助けました。そして、善き信心を発し、大力鬼は再度如来の姿に戻り、鬼神のために法要を説き、「不殺戒」を受けさせました。

そうしたところ、壙野村では長者が死に至ろうとしていたので、村人はこの人を、鬼神に渡したようです。おそらく、そうしないと健康な者も食べられてしまうので、護衛策の1つとして、そういう習慣にしていたのでしょう。残酷ではありますし、妙な生々しさがあります。しかし、鬼神はこの長者を世尊に施しました。不殺戒を受けているので、自分では食べることをしなかったのです。

ところで、その時、鬼神は世尊にこう尋ねます。「私や私の仲間は、人の血肉でもって、自分の命を保ちます。今は、戒を受けて、それを行いません。今後、どのようにして命を保つべきでしょうか?」ということです。すると世尊は、「これからは、声聞の弟子に命令しよう、仏法を修行するところにしたがって、そなたのために飲食を施させよう」ということです。そして、世尊は、「弟子達よ、そなた達はこれより以降、常に壙野鬼の食事を施しなさい。それを行わないのは、自分の弟子ではなく、天魔の仲間である」と述べました。

日蓮聖人は、禅宗が経典を軽視、或いは無視することを、『大般涅槃経』を通して「天魔」だと指摘しますが、この一文を見ると、「施食」を行わない者もまた、「天魔」であることが分かります。

よって、我々は食事の際に、必ずこのようなお唱えをします。

出生偈:汝等鬼神衆、我今施此供、此食遍十方、一切鬼神共。
折水偈:我此洗鉢水、如天甘露味、施与鬼神衆、悉令得飽満。

両方ともに、「鬼神衆」に施すことを説いていることが分かります。先に挙げた「仏勅」などがこういう文脈に生きているようです。昨日も書いた通り、「施」というのは、行として非常に重要です。それが、食事を行う際にも徹底されていることに注目したいと思います。

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