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親殺しよりも厳しい罪が?

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親を殺害するというのは、古今東西重罪中の重罪であるとされており、それはいわゆる「五逆罪」を設けた仏教であっても例外ではない。ところが、場合によっては、この五逆罪よりも厳しい罪がある。今時の人なら、「まさか、そんな?」と言いたくなるような内容だ。

 仏言、殺父殺母は懺悔しつべし、謗法は懺悔すべからず。
 おほよそ、小見狐疑の道は、仏本意にあらず。仏法の大道は、小乗、およぶところなきなり。諸仏の、大戒を正伝すること、附法蔵の祖道のほかには、ありとしれるものなし。
    『正法眼蔵』「伝衣」巻

道元禅師は、以上のように仰る。これは、「袈裟」が如何にして、伝えられてきたかを示す『正法眼蔵』の一巻に於いて、当時の律宗が、新作の袈裟を作っていたことを批判して述べた箇所に該当する。道元禅師の中では、律宗は完全に小乗仏教であって、批判の対象としか見ていない。ここで示されている「仏言」だが、直接の出典は良く分からないらしい。しかし、乾道辛卯(1171年)に宋丞相無尽居士張商英によって書かれた『護法論』というのに、以下のように出ている。

一切の重罪、皆な懺悔すべし。謗仏法の罪、懺悔すべからず。

これと、先に挙げた「仏言」はほぼ合致する。よって、同著か、それに類する文献を以て、先の如く示されたと見て良いだろう。ところで先ほどから「五逆罪」という名前を出しているが、具体的には以下の通りである。

 五無間業といふは、一殺父。二殺母。三殺阿羅漢。四出仏身血。五破法輪僧。
 これを五無間業となづく、また五逆罪となづく。はじめの三は、殺生なり、第四は、殺生の加行なり。如来は、いかにも人にころされさせたまはず、ただ身血をいだすを逆とす。中夭なきは、最後身菩薩・都史多天一生所繋菩薩・北洲・樹提伽・仏医なり。第五破僧罪は、虚誑語なり。この五逆、かならず順次生受業に地獄におつるなり。
    60巻本系統『正法眼蔵』「三時業」巻

このように、先に挙げた「殺父殺母」は、五逆罪の内2つに当たる。当然に、「かならず順次生受業に地獄におつるなり」とあるから、それらの罪を犯した生で、懺悔をしても無駄である。来世以降で何とかして貰うしかないといえる。ただ、道元禅師は、「懺悔するがごときは、重を転じて軽受せしむ、また滅罪清浄ならしむるなり」(「三時業」巻)とあるから、一応、懺悔の可能性は認めているといえる。

しかし、これらを超えていく罪が、「謗仏法」である。「謗」の字は、文字通り「仏法」に掛かると見ても良いだろうし、「謗仏」「謗法」と、「仏・法」両方に掛かると見て良い。だからこそ、「伝衣」巻に見る如く、「謗法」が問題視され、更には「四禅比丘」巻では「謗仏」によって解脱が妨げられる「四禅比丘」の問題が取り沙汰されている。しかし、五逆罪よりも、謗仏・謗法の罪が重いという時、それをそのように示す動機とはどのようなことなのであろうか?

おそらくそれは、以前【第十不謗三宝戒(『梵網菩薩戒経』参究:十重禁戒10)】という記事でも書いたように、インドに於いて、様々な部派に分かれ論争していく間に、強化されたと見るべきであろう。信じるべき仏、学ぶべき法がたった1つであれば、後は、他宗教の者にしか、「謗仏・謗法」は起きえない。ところが、道元禅師は、小乗仏教や四禅比丘に対して、「謗」の字を用いていることからすれば、仏教教団の中での問題だといえる。

「五逆罪」も、総じて見れば、最初の2つは仏教でなくても問題である。残り3つは仏教でのみ問題視される。思想的位相からすれば、「謗仏・謗法」は、先に挙げた5つの「更に先」にあるように見え、だとすれば、当然にここが一番厳しく、懺悔すら許されないことも理解出来る。

我々は、その意味で、極めて倫理的に、仏と法とを護持すべきであるという。何故誹謗が出るかといえば、それは全て誹謗する側の個人的問題である。自分の方が優れている、或いは、信仰が違う、こういった理由によって、謗仏・謗法は容易に起こりうる。だからこそ、それを止めるように促しているともいえる。親殺しよりも、信仰的問題の方が厳しいというのは、現代人にとって一種の衝撃ではあるが、内容を考えてみれば当然のように思う。

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