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そもそも「戒名」という用語はいつから使われたのか?(8)

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戒名という用語が、いつ頃から定着したかについて検討している当不定期連載記事であるが、現在の拙僧的には2つの論点がある。それは、「戒名」という用語がいつ頃から一般化したのか?ということと、「戒名」呼称が具体的に何を意味していたか、である。どうも江戸時代までは、曹洞宗でも戒名と法名が併用されていて、それがために明治時代でちょっとした議論が発生したことが理解出来るためである。既に【法名と戒名の関係についての雑考】の記事で紹介したことであるが、明治時代後期の学僧・来馬琢道老師は「戒名」を授戒会で貰った名前、「法名」を葬儀時に貰った名前、という風に区別していた。

それを思う時、捉え方が悩ましい文献があったので、その例を見ておきたい。なお、その文献とは面山瑞方禅師『洞上僧堂清規行法鈔』巻3「年分行法」項に見える一連の回向文からである。

・上来、甘露門を開き、一切如来、深秘密法を修行し、大慈円満無礙神呪を諷誦す。鳩る所の善利は、〈戒名〉霊位の為にし奉り、報地を荘厳す。 「大檀那施食」回向
・伏して願わくは、〈戒名〉同じく法味を受け、以て仏祖の化門を護り、各おの威光を増し、国家の災障を除かんことを。 「大檀那施食半斎」回向
・上来、甘露門を開き、一切如来、深秘密法を修行し、大悲円満無礙神呪を諷誦す。鳩むる所の善利は、〈戒名〉霊位に回向し報地を荘厳す。 「臨時小檀那施食」回向
・山門、今月〈来日・今日〉伏して〈戒名〉何忌の辰に値う。甘露門を開き、〈茶湯妙供〉を厳備し、合山の清衆、聖号を称揚し、秘呪及び〈観音普門品経・楞厳無上神呪〉を誦持す。鳩る所の善利は、十方常住の三宝、果海無量の聖賢、天界列位、一切聖衆、地界水界、大小明霊、日本国内一切の明神、一切の権現、三界の万霊、十方の至聖に祝献し、茲に憑いて善利、普く回厳を用いん。伏して願わくは〈戒名〉、多生の罪雪、仏日に由りて以て消除し、累劫の冤塵、慈風に仗りて蕩散す。河沙の餓鬼、一切の幽霊、咸な迷衢を出で、同じく覚路に登らんことを。 「小檀那施食亡者献供」回向

上記4箇所の通り、面山禅師は檀信徒に対する供養の際に「戒名」呼称を用いている。問題は、これが何を意味していたか?である。既に拙ブログでも何度も指摘するように、面山禅師の場合、仏教徒の名前を意味する用語としては「法名」呼称が一般的であったと考えられる。例えば、本師・損翁宗益禅師が、死罪となった者に対して与えていた名前は、授戒を伴ったにもかかわらず「法名」となっていた(『見聞宝永記』参照)。ただし、面山禅師自身としては、『若州永福和尚説戒』巻上に於いて『血脈』について提唱される段では、「各各の名号」とのみ示され、「戒名・法名」呼称を用いていない。そのため、よく分からないところだということには注意が必要だ。

しかし、上記の通り『僧堂清規』に於いては「戒名」呼称を用いていたことは間違いない。問題になるのは、この場合の「戒名」が何を指したか、である。『見聞宝永記』に記載される損翁禅師の事例の場合、最初に法名授与(特に『金剛経』の文字を割って授けたという)が行われてから、位牌を立てて授戒されていた。つまり、授戒してから授けられた名前、ではないのである。この場合は、諸切紙に於ける諸授戒作法にも共通したもの(【当不定期連載(2)】参照)であるから、「法名」というのは、(たとえ、その後に授戒作法が行われたとしても)ただ授けられた仏教徒としての名前であったといえよう。

つまり、葬儀の場に於ける「安名」も同様の「法名」であったという来馬老師の見解は、この辺の影響を見ていくべきなのかもしれない。そして、面山禅師が用いた「戒名」呼称については、やはり「授戒会に随喜した戒弟」であったことを前提にしているように思われる。面山禅師の授戒会作法(加行)の詳細は伝わらないが、先に挙げた説戒の記録を見る限り、『血脈』授与が行われていたことは間違いない。そうなると、大概はその時に「仏教徒としての名前」も授与されるものであったから、これが「戒名」だったのではなかろうか。

そして、「戒名」を得ている檀家に対して行われる供養として、上記諸法要があったということになるのだろう。一応、これは拙僧なりの結論である。なお、面山禅師の『僧堂清規』は宝暦3年(1753)刊行だが、同時代の修験関係の文献にも「戒名」表記があったことは、既に【当不定期連載(7)】でも紹介済みである。よって、宗派を超えて、「戒名」表記が一般化した時代として、18世紀中頃という数字が見えてくるように思うのである。

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これまでの読み切りモノ〈曹洞宗11〉は【ブログ内リンク】からどうぞ。

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