昭和初期の比叡山に於ける得度式作法を見出したので、内容を確認しておきたい。なお、今回参照する『法則集』(比叡山専修院・昭和10年)だが、編纂は「比叡山専修院法儀部」となっており、これは現在の叡山学院専修科のことである。
そこで、簡単に差定を見ておきたい。
・先入場着座〈和尚・教授・唄師・弟子〉
・次三礼如来唄
・次表白
・次弟子礼拝〈天照大神・氏神・国王・祖師・先徳和尚・父母〉
・次辞親偈〈流転三界中……〉
・次毀形唄
・次剃髪
・次更衣
・次讃〈善哉大丈夫……〉
・次授袈裟
・次授法名
・次授念珠
・次懺悔偈
・次授三帰
・次授三聚及〈五戒(在家)・十戒(沙弥)〉
・次自慶偈〈遇哉値仏者……〉
・次六種回向
・次弟子礼拝
以上である。気になるのは、「次授三聚及」の項目に於いて、この作法を受けた者がなるのは、在家に於ける篤信者、及び沙弥だということである。一応、剃髪し「袈裟・法名・念珠」なども授けているので、出家者になるのが当然だと思っていただけに、少し驚きであった。ただし、五戒や沙弥戒を授けるのは、他宗派でも見られ、全体としては出家の得度式であるだけに、今回もそれかと思っていたが、状況は少し違っているようだ。
なお、「授袈裟」においては、どの大きさの袈裟を授けるのかが不明。沙弥だというのであれば縵衣などであろうか?
それから、「流転三界中……」の偈について、その名称は各宗派で区々だが、比叡山の場合は「辞親偈」としているようだ。確かに、「棄恩入無為」を説く偈ではあるので、この名称に大きな違和感を覚えることはない。
また、冒頭に見える「表白」などで何か特徴的な思想でも見出せるかと思っていたが、おそらくはこの辺が該当するであろうか。
謹んで敬いて、
一代教主釈迦牟尼如来証明
法華多宝世尊
西方化主弥陀善逝
十二大願医王薄伽
三世十方応正等覚者
当来導師弥勒慈尊
このように、表白文で勧請される諸仏の名前には、「法華多宝世尊」が入っている。いうまでも無く、『法華経』が説かれる場所に現成して讃歎する多宝仏のことであるから、『法華経』を重視する天台宗に於いて、この名称が入ることに違和感は無い。なお、この作法だが、以前から度々見ている恵心僧津源信撰ともされる『出家授戒作法』とは全く異なるものであって、よって、天台宗にも複数の出家作法が伝わっていたことになるのだろう。ついでにいえば、これはいわゆる「大乗戒壇」に上って行う授戒作法でもないのだろう。よって、在家または沙弥なのだろうと思われる。
最後に、「六種回向」だが、本文には何の断りも無いが、これは日本天台の魚山声明で用いる「六種回向」を指すようで、【「六種回向」の譜】に掲載されている画像を参照し、文字を起こした(起こす際に、漢字表記は現在通用のものに改めた)。
供養浄陀羅尼一切誦
敬礼常住三宝
敬礼一切三宝
我今帰依 釈迦弥陀
願於生生 以一切種
浄妙供具 供養恭敬
無辺三宝 自他同証
無上菩提
おそらくこちらのものなのだろう。他宗派も含めた一般的な得度作法には、回向文を唱えることが多いので、天台宗の場合にはこちらの回向を行ったという理解で良さそうだ。また、途中本尊の名前で「釈迦弥陀」と二仏が唱えられているようだが、この辺も冒頭の「表白」と比べて、特段の問題を感じない。
以上、分からない部分もあるが、比叡山の得度式作法を読み解いてみた次第である。
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・先入場着座〈和尚・教授・唄師・弟子〉
・次三礼如来唄
・次表白
・次弟子礼拝〈天照大神・氏神・国王・祖師・先徳和尚・父母〉
・次辞親偈〈流転三界中……〉
・次毀形唄
・次剃髪
・次更衣
・次讃〈善哉大丈夫……〉
・次授袈裟
・次授法名
・次授念珠
・次懺悔偈
・次授三帰
・次授三聚及〈五戒(在家)・十戒(沙弥)〉
・次自慶偈〈遇哉値仏者……〉
・次六種回向
・次弟子礼拝
以上である。気になるのは、「次授三聚及」の項目に於いて、この作法を受けた者がなるのは、在家に於ける篤信者、及び沙弥だということである。一応、剃髪し「袈裟・法名・念珠」なども授けているので、出家者になるのが当然だと思っていただけに、少し驚きであった。ただし、五戒や沙弥戒を授けるのは、他宗派でも見られ、全体としては出家の得度式であるだけに、今回もそれかと思っていたが、状況は少し違っているようだ。
なお、「授袈裟」においては、どの大きさの袈裟を授けるのかが不明。沙弥だというのであれば縵衣などであろうか?
それから、「流転三界中……」の偈について、その名称は各宗派で区々だが、比叡山の場合は「辞親偈」としているようだ。確かに、「棄恩入無為」を説く偈ではあるので、この名称に大きな違和感を覚えることはない。
また、冒頭に見える「表白」などで何か特徴的な思想でも見出せるかと思っていたが、おそらくはこの辺が該当するであろうか。
謹んで敬いて、
一代教主釈迦牟尼如来証明
法華多宝世尊
西方化主弥陀善逝
十二大願医王薄伽
三世十方応正等覚者
当来導師弥勒慈尊
このように、表白文で勧請される諸仏の名前には、「法華多宝世尊」が入っている。いうまでも無く、『法華経』が説かれる場所に現成して讃歎する多宝仏のことであるから、『法華経』を重視する天台宗に於いて、この名称が入ることに違和感は無い。なお、この作法だが、以前から度々見ている恵心僧津源信撰ともされる『出家授戒作法』とは全く異なるものであって、よって、天台宗にも複数の出家作法が伝わっていたことになるのだろう。ついでにいえば、これはいわゆる「大乗戒壇」に上って行う授戒作法でもないのだろう。よって、在家または沙弥なのだろうと思われる。
最後に、「六種回向」だが、本文には何の断りも無いが、これは日本天台の魚山声明で用いる「六種回向」を指すようで、【「六種回向」の譜】に掲載されている画像を参照し、文字を起こした(起こす際に、漢字表記は現在通用のものに改めた)。
供養浄陀羅尼一切誦
敬礼常住三宝
敬礼一切三宝
我今帰依 釈迦弥陀
願於生生 以一切種
浄妙供具 供養恭敬
無辺三宝 自他同証
無上菩提
おそらくこちらのものなのだろう。他宗派も含めた一般的な得度作法には、回向文を唱えることが多いので、天台宗の場合にはこちらの回向を行ったという理解で良さそうだ。また、途中本尊の名前で「釈迦弥陀」と二仏が唱えられているようだが、この辺も冒頭の「表白」と比べて、特段の問題を感じない。
以上、分からない部分もあるが、比叡山の得度式作法を読み解いてみた次第である。
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