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今日六月一日は半夏節

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今日、六月一日は、禅宗寺院で「半夏節」といわれます。いや、現状の叢林ではそれ程聞きません。理由は後述しますが、とりあえず古来どのようにいわれてきたかを見ていきます。

六月一日、半夏節と称す。若し上堂する次いでならば、坐禅を放下する由を報す。即ち随意坐禅なり。版を打たざるのみ。
    『瑩山清規(下)』年中行事

「半夏節」というのは、4月15日〜7月15日まで行われる夏安居の中間地点ということです。現在は5月15日から始まるので、1か月ずれて「半夏節」が来ます。よって、今日六月一日は「衣替え」以上の理解がされていません。ですが、この日には坐禅を放下(放下とは、「止める」の意。詳細は【つらつら日暮らしWiki−放下】参照)する日としても位置付けられていました。坐禅を止める理由は、1つは気温が暑すぎるということもあります。ですので、「随意坐禅」ということで、各自涼しいところに行って坐ったというのです。これは、中国から伝わった方法のようです(「年分行持」表記の確立が、道元禅師の時代より遅れてしまう清規上では曖昧ですが)。年がら年中坐禅していたイメージばかりある人には意外かもしれませんが、永平寺を開かれた道元禅師も導入しています。

この辺は既に、これまでの機会に拙ブログでは採り上げてきたこと(【禅宗修行道場の六月一日(平成21年度版)】など参照)なので、ここでは別の観点から見ていきましょう。その仮名法語による問答集である『夢中問答』は、拙ブログでも度々採り上げている夢窓国師(疎石、1275〜1351)ですが、夢窓国師には語録が残っています(『夢窓国師語録』全3巻、『大正蔵』巻80に所収)。その中から、今日6月1日に因んだ上堂を見ていきたいと思います。

 半夏の上堂。
 前四十五日、既に往くも咎めず。後四十五日、道うも預め諾せず。正当、今日〈払子を拈起して云く〉、龍山手裏の払子、ボツ跳して三十三天に上り、歓喜園裏に在って帝釈に対して深妙法を説く。諸天囲繞して黙然として粛聴す。且く道え、箇の什麼の法をか説かん。
 今朝、是れ六月朔なり。
    同語録巻上「住山城州瑞龍山南禅寺語録」

瑩山禅師は、「半夏節」でもって、坐禅を放下し随意坐禅にすると、上堂で述べるべきだとしておられますが、同時代の臨済宗祖師方の語録を見ても、そのことを指摘する方は見えません。よって、中国から導入した制度であったとしても、どれほどに実施されていたかは分かりません。もしかすると、臨済宗ではやらなかったのだろうか?

そんなことを調べていて面白かったのが、仏照禅師(白雲慧暁、1228〜1297、東福円爾の資)の語録で、「半夏の上堂。今夏安居、一百二十日」といっていたことでしょうか。普通は、90日なのに、どうしてこの時は“120日”?修行者大変じゃない?とか思ったわけですが、すぐに分かりました。この年は、4〜6月のいずれかに、「閏月」が入ったのです。当時は太陽太陰暦だったわけですが、これですと11日くらいずれてしまうので、3年に一度は1年13か月あったわけです。この時には、それが適用されたものと思います。とはいえ、慧暁は1292年に請されて東福寺に入り、1297年12月に栗棘庵にて遷化しています。そこで色々と調べたら、東福寺に入ったその年の正応5年は閏6月だったそうなので、閏を含めて「120日の安居」だったということです。「九旬安居」なんて、結制の代名詞になっていますけど、「十二旬安居」っていわなくてはならなくなりますね(笑)

さて、ここで南禅寺に入った夢窓国師が何を言ったかといえば、九旬安居の半夏である6月1日に、過去と未来の非存在性を述べつつ、正当の今日、半夏というありようそのものを学人に問うています。その問いは、自らが持つ払子が、天上にいる帝釈天に深妙法を説いたという表現で述べています。そこで、「何が説かれたか?」ということです。無論、説かれたのは、「什麼の法」であります。何かとも限定できない、融通無礙なる法の事実を説いたのであります。それは、まさにこの夏安居に於ける学人の修行そのものなのです。

でも、この上堂のおかげで、「半」の意味が分かりました。以前から、『正法眼蔵』「有時」巻などで、「半有時」とかって使われて、これが訳せていても、どこか腹落ちしていなかったわけですが、この上堂を見て分かりました。「半」というのは、「そのもの」の意味でありますね。何故ならば、原意に「真ん中」「なかば」などの意味があり、「中」に通じるためです。「最中」「たけなわ」なんて意味もあって、「半有時」は「有時たけなわ」なんて理解出来そうです。これ、良い感じです。

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