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『示庫院文』と『知事清規』の関係について

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示庫院文』というのは、寛元4年(1246)8月6日に、道元禅師が庫院でのあり方、つまりは食事を作る担当の者達への訓戒を示した文書である。余り長くは無いのだが、最近、これと『永平寺知事清規』「典座」項との接点が気になってきたので、以下に示したいと思う。なお、『永平寺知事清規』は同年6月15日に示された軌範である。よって、時期的にはほぼ同じであるため、共通点があっても不思議では無い。

はるかに、西天竺の法を正伝し、ちかくは、震旦国の法を正伝するに、如来滅度ののち、あるひは諸天の天供を、仏ならびに僧に奉献し、あるひは国王の王膳を、仏ならびに僧に供養したてまつりき。そのほか、長者・居士のいへよりたてまつり、毘闍・首陀のいへよりたてまつるもありき。かくのごとくの供養、ともに敬重するところ、ねんごろなり。よく天上・人間のなかに、極重の敬礼をもちい、至極の尊言をして、うやまひたてまつりて、飯饌等の供養のそなへを、造作するなり、深意あり。いま、遠方の深山なりとも、寺院の香積局、その礼儀・言語、したしく正伝すべきなり。これ、天上・人間の、仏法を習学するなり。
    『示庫院文』

全体として、数段に分かれるが、これが最初の部分である。これに該当する『知事清規』の文章は以下の通りである。

然らば則ち典座は、道を以て道を供養するの職なり、心を以て心を供養するの時なり。所以に毎時に衆を供す。故に『禅苑清規』に云く、「成道の為の故に方に此の食を受く」と、典座に報ずる所以なり。いわゆる施者。受者、一等に成道す。故に此の食を受くるなり。
    『知事清規』

まずは、「典座」という存在が、「供養」を主とする役職であることが分かる。いわゆる、料理を行い、修行僧に食べさせる立場ではあるが、それは現前僧宝たる学人を供養することとなるのだ。

いはゆる粥をば、御粥、とまをすべし、朝粥、ともまをすべし、粥、とまをすべからず。〈中略〉斎・粥いれたてまつらん調度、みなかくのごとく、うやまふべし。不敬は、かへりて殃過をまねく、功徳をうること、なきなり。〈中略〉斎・粥ととのへまいらするところにては、仏経の文および祖師の語を、諷誦すべし。世間の語、雑穢の話、いふべからず。
    『示庫院文』

これは、食事を作る際に、活用する食材や、或いは食器・調理器具などに対して、敬語を用いるべきだという御示しである。これについては、このような教えがある。

米を喚び菜を喚ぶ等、又は尊崇の言を以て而も之を喚ぶべきなり。輒なること莫れ疎なること莫れ。麁悪の語・雑穢の語・戯論の語を以て、而して米菜・飯羹等を罵言すべからず。
    『知事清規』

この教えを具体的な例も挙げて分かり易く言えば、『示庫院文』になるといえよう。

斎・粥、ととのへまいらする調度、ねんごろに護惜すべし、他事にもちいるべからず。
    『示庫院文』

調度というのは、食器や料理器具ということだが、それらは丁寧に護り用いるべきだという。乱暴に扱っては壊れてしまい、余計な仕事が増えるためである。これに相当するのが以下の文脈である。

今日斎時の所用の調度は、須らく打併すべし。いわゆる飯桶・羹桶・諸般の盤器・調度什物、浄潔に洗拭し、高処に安く者は高処に安く、低処に安く者は低処に安く。高処は高平に、低処は低平に。木杓・鉄杓・竹筴等の類、一斉に打併して、真心に護惜し、軽手に収放せよ。
    『知事清規』

これもやはり、食器や料理器具の並べ方の問題である。ここでは、正しく整頓されるべきだと示され、そして、具体的な方法として、諸々の器具については、能く能く洗ってから、高いところに安置されている器具は高いところに、その逆に、低いところに安置されている器具は低いところに置くべきだと示されている。また、他のおたま等については、一斉に並べて、真心から護ろうとし、そして「軽手」、つまりは余計な力を入れずに出し入れをせよと仰っている。いつの時代にもいたのであろう。力の抜き加減が分からず、身体の動きの固い人が。

さて、とりあえず以上のように見比べてみたが如何であろうか。全体としての論旨は共通しているように思う。無論、和文と漢文との違いはあるわけで、ただ一概に翻訳したとも思えないが、『知事清規』に共通する想いを抱いて書かれたのが『示庫院文』では無いか?という仮説は、明らかに出来ると思われる。また、いうまでもないことだが、嘉禎3年(1237)に書かれた『典座教訓』との同異を考察する必要もある。だが、ここではまずは大雑把ながらも、以上の指摘に留めておきたい。

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