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市民の「武器庫」としての仏教

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この記事は、ちょっとした雑談である。

定期購読している岩波書店『図書』(2012年6月号)に、面白い一文を見出した。

とくに豊かな蔵書を持つわけでもない一市民が、憩いのためだけでなく、生活の問題を自分なりに深く捉え解決するために、町の図書館を利用するというのは当然ありうることです。そういう市民の「武器庫」としての図書館の力を強めるためにも、人文・社会諸科学から医学・工学までの専門書群はやはり欠かせないのではないでしょうか。
    「こぼればなし」、前掲同誌64頁

ここでいう「武器」とは、もちろん「知恵」ということである。よって、「武器庫」とは「知恵の宝庫」ということである。ところで、現在の日本ではこの「武器庫」は、地方自治体が運営することもあるが、昨今の発想で「経費」「費用対効果」が問われるため、以下のような事態になる。

<神奈川県立図書館>閲覧維持へ 廃止・集約検討一転、存続の声が多く(毎日新聞)−Yahoo!ニュース

神奈川にある「県立図書館」が、予算逼迫の状況下で運営できないかもしれないというわけだ。そして、記事ではこの方針に対し、市民が知識を得る方法を局限するのではないか?という懸念が寄せられており、どうも存続になったようだ。

この記事に見える原理原則は理解出来る。だが、そもそも原理原則とは、それを金科玉条にして保持するべき文脈としてあるのではない。むしろ、容易に現実を相対化するための文脈としてあるのであり、それ以上でも以下でも無い。だからこそ、原理原則を振りかざす人の言葉は、往々にして聞くべきもののように聞こえるが、実際に現実をどう変えていくべきかという知恵を得ることは難しいのである。今回も、「本来、図書館の役割というのは・・・」的議論はそれとして行うにしても、しかし、現実求められている状況と、予算とを上手く考えていくべきだといえる。

本題に戻すが、仏教が武器になりうるかどうか?という時、仏教に於いてその教えや功徳が、武器に喩えられたことを確認すれば良いと思う。禅宗では、こんな言葉がある。

垂示に云く、殺人刀、活人剣。乃ち上古の風規にして、亦た今時の枢要なり。若し殺を論ずれば、一毫も傷つけず。若し活を論ずれば、喪身失命す。
    『碧巌録』第12則・垂示

これは、師家が優れた導きを行うことを、「刀剣」に喩えた言葉であるけれども、師家にとっては「殺」といえば、外面的に傷つけるわけでは無い、しかし、その中味は素晴らしい仏に仕立ててくれる。同じく「活」といえば、全身を仏にしてしまうので、凡夫の分別心によって形作られたこの己は、その全身を失ってしまう。つまり、禅僧にとっての刀剣とは、仏をこしらえる手立てのことをいう。これこそが、仏知見である。

しかしながら、これは師家という優れた人の手立てである。すぐに、市民にとっての武器になってくれるとは思えない。その意味では、「吹毛の剣」ほどの切れ味がある刀剣は如何であろうか?

剣刃上に毛を吹いて之を試すに、其の毛自ずから断つ。乃ち利剣之を吹毛と謂う。
    『碧巌録』第100則・本則評唱

これは、刃の上に毛を置き、それに息を吹きかけただけで切れたという、伝説の利剣である。これを、一般的には我々の煩悩をあっさりと断ち切ってくれる禅の働きに準える。そう考えると、使いこなすのは容易ではない。それこそ、「諸刃の剣」になりかねない。実は、先に挙げた「市民の武器庫」という表現について、拙僧はやや、違和感を覚えていた。知識は武器になるかもしれない。だがそれは、常に「諸刃の剣」になるということだ。だからといって、武器を出さなくて良いとはいわない、出すのなら、せめて「使用上の注意」と「訓練」とを行うべきだということ。

禅ではそれを、師家に参ずることで可能とするのだろうが、市民にとっては何が訓練となるのだろうか?やはり、教育ということになるのだろうが、それが余り巧く行かない場合、「辻斬り」のような話が出てきそうで、それがどうにも嫌だ。人は、武器を手に取れば使いたくなるという。知を武器と喩えた場合、辻斬りというのは何を意味するのだろうか?それは、一知半解でもって、他者を傷つけることにあるだろう。知として正しいことが、人間関係の間で正しいこととは限らない。

ところで、仏教が、禅が武器になるという時、それを使う人はどうなるのだろうか?要するに、生死の大事を明らかにするということになるはずだ。

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