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原始仏教崇拝と無縁の我等

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我々はつい、かつての仏祖が生きておられた時代というのは、世間・社会も良い時代で、仏祖本人はもちろんのこと、その門下・弟子にも優れた龍象のみが集っていた、なんていう「幻想」を抱いてしまうかもしれない。でも、おそらくそれは本当に幻想に過ぎなくて、しかも、その事実を鋭く見抜いていた人もいたわけである。

示ニ云ク、先聖必ズしも金骨にあらず、古人豈皆上器ならんや。滅後を思へば幾ばくならず、在世を考フるに人皆俊なるにあらず。善人もあり、悪人もあり。比丘衆の中に不可思議の悪行するものあり、最下品の器量もあり。然れども、卑下して道心をおこさず、非器なりといツて学道せざるなし。
    『正法眼蔵随聞記』巻1-2、下線は拙僧

道元禅師は、このようにして当時自分の下にいた弟子達を励ましている。この時代、仏教を学ぼうとしていた者達は、殊更「末法」ということを自覚せざるを得なかった。それが証拠に、北嶺の総本山たる比叡山は、破滅法の様相を呈し、山内抗争に明け暮れ、多くの者が山から退去するという事件まであった。道元禅師はその事件の渦中に居合わせながら、しかし、その後の中国留学などを経て、「末法、恐るるに足らず」という信念を抱かれたのである。その上で、上記引用文下線部にあるように、仏陀滅後はもちろんのこと、まだご存命中であったとしても、人が皆、俊英だったわけではないとするのである。

何故道元禅師がこう、断言出来るのか?それは以下の一文が明らかにしてくれる。

古人も皆金骨にあらず、在世もことごとく上器にあらず。大小ノ律蔵によりて諸比丘をかんがふるに、不可思議の不当の心を起すも有リき。然レども、後には皆得道シ羅漢となれり。しかあれば、我等も悪くつたなしと云へども、発心修行せば得道すべしと知ツて、即ち発心するなり。
    同上巻5-5、下線は拙僧

道元禅師は、『律蔵』を通して、釈尊在世時の比丘のあり方に注目している。そうなってくると、確かに我々には、或る者達の状況が眼に浮かんで仕方ない。あの問題集団、「六群比丘」である。

しるべし、身心もし仏法あるときは、在家にとどまることあたはずといふことを。諸仏祖みなかくのごとし。出家すべからず、といふともがらは、造逆よりもおもき罪条なり、調達よりも猛悪なりといふべし。六群比丘・六群尼・十八群比丘等よりもおもしとしりて、共語すべからず。
    『正法眼蔵』「三十七品菩提分法」巻

ここで、「六群比丘」「六群尼」「十八群比丘」などという言葉が出て来た。道元禅師は、これら出家者の中での問題集団よりも、更に在家でいることの方が余程悪いというので、これらの者を出しているが、しかし、先に挙げた『律蔵』に出てくる問題ある者達とは、この者である。例えば、『五分律』や『摩訶僧儀律』なんかを見ると、この者達は繰り返し問題ばかり起こしているのである。罪のない比丘を、ワケの分からない理由で「波羅夷罪(僧団追放の罪)」だとしてみたり、在家の邸宅に行って失礼なことをしてみたり・・・

道元禅師は仏陀在世当時からこのような者が居たのだから、今の我々が卑下をする必要は無い、問題なのは如何にして発心・修行・菩提・涅槃の行持道環を努めるか?だと諭すのである。多分、というか、確実にそうだと言えるけれども、『律蔵』などを見てみると、いくら仏陀釈尊とはいえ、自らの僧団運営には、一方ならぬ苦労をされたはずなのだ。それを、一部の経典だけを読んで、「聞き分けの良い、優れた弟子ばかりだった」などと誤解してはならない。そもそも、『経蔵』とは、仏陀滅後に結集されたものである。そうであれば「聞き分けの悪い、修行未了の者」などは呼ばれておらず、阿羅漢ばかりだったという。

そういう状況を考えてみれば、おそらく道元禅師の時代も、今も、釈尊在世時と同じである。我々は仏陀とまみえたいばかりに、或いはその時代に生まれたかったと悔いる(【愧ても悔ても余りあり】という記事もあるが、瑩山禅師は単純に悔いたのではない)けれども、もしかしたら、その時代に生まれていても、やっぱり今の自分は変わらず、むしろ「六群」を「七群」に増やすだけだったかもしれないと思うべきである。よって、時代的な問題に把われず、むしろ、自分を変えるべく発心すべきなのである。

よって、我々は原始仏教を崇拝する必要は無い。目の前にある現在の日本仏教で必要十分だといえる。問題は、それを如何にして学ぶかということであり、その場合、結局は「自分の問題」に帰するのである。それも出来ずに、日本仏教の堕落を指摘する者は、おそらく「7人目」の最有力候補なのだ。

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