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「雪裏の梅華」とは何か?(続きの続きの続き)

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もう、だんだんしつこくなってきたので、【「雪裏の梅華」とは何か?(続きの続き)】で止めようかと思ったけど、「一華開五葉」だから、5回まで続けよう、というので、次の記事まで続けたい。

 先師古仏、上堂に曰く、瞿曇、眼睛を打失する時、雪裏の梅華只だ一枝のみ、而今の到処に荊棘を成ず、却って笑う春風の繚乱として吹くことを。
 且道すらくは、瞿曇眼睛は、ただ一二三のみにあらず。いま打失するは、いづれの眼睛なりとかせん、打失眼睛、と称する眼睛のあるならん。さらにかくのごとくなるなかに、雪裏梅華只一枝、なる眼睛あり。はるにさきだちて、はるのこころを漏泄するなり。
    『正法眼蔵』「眼睛」巻

道元禅師は、ここで引用されている如浄禅師の上堂語を、『正法眼蔵』の「梅華」「眼睛」「優曇華」の諸巻で用いている。元々この如浄禅師の上堂とは、釈尊成道会に於いて行われており、釈尊が正法眼蔵を正覚された現場を活写したものといえ、更にその正法眼蔵が嫡嫡相承されてきた様子をも示している。よって、大法の自覚とその伝灯、両方にまたがるのが、「雪裏の梅華只だ一枝のみ」なのである。特に、大法の自覚が「雪裏の梅華」であり、伝灯が「只だ一枝のみ」である。

この両方は、異なる二つの様相を示してはいるが、本質としては同じことである。それは、普遍的なる道理に参入し続けていくことを示すのである。そして、先に挙げた「梅華」「眼睛」「優曇華」の諸巻で、「梅華」は自覚と伝灯の両方に掛かり、「眼睛」は自覚に掛かり、「優曇華」は伝灯に掛かると思っていただければ、大体合っている。大体、というのは、繰り返しになるが、これは両方を明確に区分することに意味が無いことを申し上げたいし、先の諸巻も厳密に区分できるわけではない。

さて、それではこの「眼睛」巻で道元禅師が述べたこととは一体何か?

それは、成道時に打失されたる瞿曇の「眼睛」について示すものである。この「眼睛」だが、通常の意味では「眼」を指すけれども、内容を申し上げれば、「仏法の要」ということである。仏法の要を失うということは、通常であれば迷いを意味すると思いがちだが、もう一つ、もうその必要が無いほどに一体であることをいう。この場合の「打失」とは、瞿曇=釈尊にとって眼睛が、完全に自己と一体になったことをいう。客体としてあるわけではなくなったので、打失である。

よって、その完全に眼睛と自己とが一体となれば、打失とすらいえなくなるのである。打失とすら言えないほどの眼睛の中に、その働きがある。何故ならば、仏法とはその働きを欠かすことが出来ないためである。仏法の働きとして、「雪裏の梅華、只一枝のみ」である。道元禅師はここで、「雪裏の梅華」を、悟りが得られる前の衆生にも、仏法が具わる様子を示すものとして用いている。

それが、「はるにさきだちて、はるのこころを漏泄するなり」である。「はる」とは、仏法が得られた悟りの世界であるが、それに先立って既に、春の「要の心」が漏れていることをいう。だからこそ、仏法が具わっている衆生を指すと理解できるのである。これは、仏祖の側からいわれたことであるが、これを更に、仏法の側からいえば、次のようにもなる。


 いはゆる先師古仏いはく、瞿曇打失眼睛時、雪裏梅華只一枝、而今到処成荊棘、却笑春風繚乱吹。
 いま如来の眼睛、あやまりて梅華となれり、梅華、いま弥綸せる荊棘をなせり。如来は眼睛に蔵身し、眼睛は梅華に蔵身す、梅華は荊棘に蔵身せり。いまかへりて春風をふく。
    『正法眼蔵』「優曇華」巻

如来の眼睛とは、如来の保持したる仏法の要ということだから、それが誤って梅華となった。これは、仏法が具象化したことをいう。仏法の具象化とは、遍界不曾蔵であって、それを「弥綸せる荊棘」といっている。仏法は世に満ちているけれども、触るとトゲがある。だから、その接点は慎重に持たねばならない。それは、弥綸せる梅華から包まれることである。この包む―包まれる関係について、道元禅師は「蔵身」の一語で論じておられる。如来は仏法の要に蔵み、仏法の要は梅華に蔵み、その梅華は荊棘に蔵む。よって、トゲに触れることが如来になることといえる。しかも、そこに仏法の働きがないわけではない。その働きのことを、「いまかへりて春風をふく」とはいう。この春風とは、梅華の香りを遍界にもたらす働きである。

「雪裏の梅華」とは、仏法の具象化とそれが普遍に到る働きの前提として用いられる語句ともいえる。

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