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臘月十九日の開堂上堂

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今日は12月19日です。色々と調べていたら、たまたま今日、或る修行道場で「僧堂が開単」されたらしいので、その時の様子を見てみたいと思います。

 臘月十九日に開堂す。
 聖僧安座して場開く。選仏菩提の座に師子頻りに呻く。
 列聖叢恵して剣光寒し。三昧力也知大坐、円通を択ぶ。
 共に惟れば大聖文殊師利菩薩摩訶薩埵。
 其の体を指せば則ち群生の本有大智。
 其の理を語れば則ち諸法無著の真宗。
 歴劫の師唯だ仏仏の師のみに非ず。万象の中独り雄雄たり。
 玻璃茶、無著の口を塞断す。般若鋒、新学の聾を打発す。
 瓦礫推頭驀直路を開く。金剛窟下に尊勝翁を接す。
 五眼の神光十界を照燭す。一座の台雲太空を包含す。
 看よ看よ。昔日万菩薩経行して未だ嘗て此の中を離れず。
    『智覚普明国師語録』、『大正蔵』巻80-640a

この「智覚普明国師」という人ですが、臨済宗・夢窓疎石の法嗣になる、春屋妙葩(1311〜1388)という人です。この人は、康暦元年(1379)6月から南禅寺の住職になった人(明年2月に退董)ですが、当時の南禅寺は、比叡山などとの争いの中で、伽藍が荒廃していたともされており、春屋はその復興に尽力しました。南北朝時代の一番最後くらいの人で、皇室からも、将軍・足利義満からも強い帰依を受けました。義満は、春屋を「総録司」という僧侶の戸籍(僧籍)を掌る最高責任者に据え(春屋が最初)、そして相国寺を建てたときにも、春屋を開山として請しました(春屋が、遠慮して師の夢窓を勧請開山にする)。

そして、今日紹介していくのは、その南禅寺に住職していた時代に行われた1379年12月19日に行われた開堂の上堂です。この時、建てられたのは僧堂で、いわゆる修行僧が日夜ここに宿泊して、朝から晩まで修行を行う施設を意味します。まずは建物が建て終わり、最後にその「本尊」である聖僧を拝請しています。聖僧というのは、現在の曹洞宗寺院の場合、ほとんどの場合で文殊菩薩を置いていることと思います。これは、「聖僧」という名前から分かるように、僧侶の第一座を僧堂の主として招く必要があり、それに、文字通りの「大乗菩薩僧」である文殊菩薩が最適とされたのです。ただ、場合によっては賓頭盧尊者や、摩訶迦葉尊者の場合もありました。

当時の南禅寺では、文殊菩薩です。正直なところ、この事例から100年以上前ですけど、道元禅師が永平寺を開いた際には、招いた「聖僧」は不明です。おそらくは文殊だと思いたいところですが、道元禅師自身、著作の中では「聖僧」「聖像」とはいうものの、具体的に誰かは書いていません。よって、不明なのです。こういう開堂の上堂でも残っていれば良かったですが・・・

さて、まず春屋はこの文殊菩薩について、ただひたすらに讃歎しています。ここで書かれているほとんどの内容が、文殊菩薩を褒めたモノだといえましょう。文殊菩薩は、僧形の場合と、普通の菩薩形の場合とがありますが、菩薩形の場合だと、頭や首には瓔珞を付け、剣を持ち、獅子に乗っているという姿のイメージが強いですね。

そして、春屋は、文殊の身体とは、衆生が本有する大智そのものであり、その理とはまさに一切の執着のない真宗そのものだとしています。そして、例えば道元禅師と如浄禅師の問答である『宝慶記』第20問答にもいわれるように、文殊は諸仏の師ともいわれますが、ここでは、まさにあらゆる存在の中で、独り雄々しいともしています。「玻璃茶」と「無著」との関係ですが、『洞山録』などに、無著が茶を飲んでいたときに、文殊菩薩がその茶碗のフタを持って来た話というのが載っていまして、その一件を受けてのものとなります。内容的には、以下も含めて、とにかく優れた逸材だと指摘しているのです。

もうちょっと時間があれば、一々の典拠を挙げておきたいところですが、ここまでにしておきます。文殊の故事が、これほどに多いのかと驚かされますよ。

問題は、最後の一節です。春屋は、万という菩薩が歩いてきても、未だこの僧堂の中から離れたことはないとしています。まさに、菩薩の力とはこの僧堂にて錬られているのです。だからこそ、選仏場とも呼ばれ、雲が集まる如く、修行僧が来るから雲堂ともいうのです。

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