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『増補分類無縁双紙』の「亡者授戒願文」について

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以前から、拙僧の手元には、『無縁双紙』の版本の一種があったのだが、完全ではなかったのと、虫損などが激しかったため、中々利用できずにいた。しかし、この度、『増補分類無縁双紙』(拙僧所蔵本[柳枝軒・小川多左衛門、全4冊]の刊行年次は不明なるも、江戸時代後期とされる)の良本が入手できたので、以前から気になっていた以下の数節について、ブログの記事に書いておきたい。

・亡者授戒願文
・亡者授戒法
・亡者授戒回向曰

なお、本書は江戸時代に諸宗派通用(主として、禅や真言、修験などのよう)の回向文類(特に「逆修」について多くの文例を収録している)として刊行されており、当時の現場で用いられていた諸作法や回向文・護符の類まで知ることが可能である。今回は先に挙げた3つの内、「亡者授戒願文」を採り上げておきたい。

  亡者授戒願文
 三国仏祖の血脈は禅宗一大事の因縁、〈某の〉人、山僧に就いて心を傾て之を請ふ故に、以て之を授く。
 伏て願は〈男は永く佳運を保て必ず善根を植うる矣。女は貞女の徳を抱て成仏の因を作す矣〉。
    『増補分類無縁双紙』巻8・9丁裏~10丁表、訓読は原典に従いつつ見易く改めた

以上の通りである。なお、また別の記事で紹介する予定である「亡者授戒法」について予め言及しておくと、いわゆる十六条戒のみをただ授ける作法であって、その前に行われるかと思われる懺悔や、『血脈』「安名」の授与が見えない。ただし、『血脈』については、上記願文に見えるため、おそらくは授けられていたものと思われるのだが、拙Wikiでも書いた通りで、「血脈」の語については解釈が難しい。物としての『血脈』譜の意味にもなることもあれば、仏祖が正伝してきた「正法眼蔵」の意味で取ることもある。

ただし、上記の場合は、あくまでも、「授戒」の願文であることに鑑み、物としての『血脈』だと受け止めておきたい。そうなると、合わせて「安名」も行われた可能性がある。そして、それらは授戒に及ぶ前の段階で行われたともいえよう。

なお、ちょっと調べた限りでは、この箇所を含め、本書の多くは、臨済宗で成立したという『諸回向清規』と同じであり、上記願文も巻4に同文が収録されている。成立時期からすれば、本書が『諸回向清規』から引用したということなのだろう。

ところで、上記願文から『血脈』は、男女の隔てなく授けられる通用のものであった反面、授かった場合については、その功徳の内容が違っているところが興味深い。男性の場合には、ただ善根を植えることを願い、女性の場合には貞女の徳を抱き、成仏の原因になることを願っている。この辺は、当時の男女間差別の結果だとしかいえないと思われ、つまり、女性の成仏について否定的に論じられる場合が多かったことへの救済的文脈であるといえよう。無論、男女通じて救済的な内容を持つ文脈があるということは、四衆相手に葬儀を実施していた当時の僧侶たちの日常が垣間見えることを意味していると思われる。

なお、敢えて「亡者」という項目名に付された2字からは、特定の死者が出た後で、行われたのが上記願文などであると思われるため、なるほど、亡者(死者)相手に、簡潔に授戒したということなのだろう。

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これまでの読み切りモノ〈曹洞宗11〉は【ブログ内リンク】からどうぞ。

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